3rd season
「よし、できた。あとはこれを撮影して、袋詰めして、と」
私は主婦をしながら、ハンドメイドのアクセサリー作家みたいなことをしている。作っているのは、北欧調の、カラフルだけど年配の人にも似合うようなシックなものが中心で、ネットショップを立ち上げて販売している。
はじめた頃は月に二、三個しか売れなかったけれど今はリピーターも増えて軌道に乗り、夫の給料と同じくらい稼ぎのある月もある。
リピーターの中に、春口さんがいる。春口さんは福岡に住む六十代後半の女性で、最初に注文をしてくれたのは四年前だった。
商品を発送した後でクレームの電話が入ったのでよく覚えている。
「あのね、ピアスの留め具がすぐ外れて落ちちゃうの。これ、なんとかならないかしら」
不良品はこちらの落ち度なので、すぐに交換対応をした。
それから半年に一度くらい、春口さんは新しいピアスを買ってくれるようになった。そしてその度に、丁寧なメールを送ってくれた。
春口さんは夫婦で北欧に旅行をするのが趣味で、私の店で新しいピアスを探すことから、旅の準備をはじめるのだそうだ。
〈あなたのお店のピアスはとっても素敵で、旅のおまもりにぴったりよ〉
ところがある時期を境に、春口さんからの注文が途絶えた。
最近はあまり旅行に行けないのかな、とか、前のピアス、気に入ってもらえなかったのかな、とか、私は少し気になっていた。
春口さんから久しぶりの注文があったのは、昨日のことだ。でも春口さんの名前ではあるものの、メールアドレスがいつもと違う。備考欄には「急ぎなので即日発送して欲しい」という無理な要望が書かれていた。しかも困ったことに、注文の商品の在庫がちょうど切れたところだった。
そのことをメールで伝えると、すぐにメールがきた。
それは春口さんからではなく、春口さんの娘さんからだった。
春口さんは亡くなっていた。
最後の旅立ちに、いつものように新しいピアスをつけてあげたいと娘さんはメールに書いた。葬儀までにどうしても間に合わせてくれないかと。何でもいいから至急送ってくれと。
私は、一度も会ったことのない春口さんの姿を想像して、ピアスを選んだ。黄色と紺のシンプルな柄に、コットンパールのついた上品なもの。春口さんならきっとこれを選ぶんじゃないか、と思った。それが春口さんにいちばん似合うような気がした。
発送を完了してから、私はなんだかやりきれない気持ちになって、亡くなった春口さんの使っていたメールアドレスにメールを送った。
〈いつもお買い上げ、誠にありがとうございます。〉
するとその直後に、メールが届いた。
宛先不明で戻ってきたのかと思ったけど、開いてみたら、違った。
せっかくだから、商品番号384の、コットンパールのついたネイビーとイエローの柄のがいいわ。
ええ、なんだろうこのメール。そう思いつつ、
〈まさにその商品を送らせていただきました〉
と返すと、またすぐに、
そう、よかった。貴方なら選んでくれると思ってた。
きっと娘さんが春口さんのアドレスからメールを送っているのだろう。そう思って納得しながら、でもそうではないような気もする。
私は、私の作ったピアスを耳につけて、春口さんが旅立つ姿を想像ながら、最後にひとこと、メールを送った。
〈ご旅行、どうか、お気をつけて〉
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放送日:2020年1月7日|出演:松岡未来 佐藤みき|脚本:藤田雅史|演出:石附弘子|制作協力:演劇製作集団あんかー・わーくす