2nd season
出会い系サイトで、私はある男の人と知り合った。
ふたつ年上の証券マン。プロフィールを見ると趣味は合いそうだし、似ている芸能人が私のタイプだったし、なんだかよさそうだったから連絡をとってみた。ただひとつ気になったのは、微妙な条件がついていたこと。
「三ヶ月限定で恋愛しませんか」。ふざけているのかな、と思った。でも冷やかし半分でメールを送ってみた。
そして私たちは出会った。三ヶ月限定、という約束で。
「あの、茉莉奈さんですよね」
「はい。えっと、健介さんですか?」
「はじめまして」
「あ、はじめまして。でも、メールのやりとりはもう三十通くらいしてますよね」
「ですね(笑)」
実際に会ってみると、彼はとてもいい人だった。穏やかでやさしくて、話していて楽しい。私はすぐに彼のことを好きになった。
「三ヶ月限定」の意味はよくわからなかったけど、お互いを好きになってしまえば、そんなのは関係ないと思った。
週末は必ずデートをした。いつものカフェで待ち合わせて、ドライブしたり、映画を観たり、買物をしたり。次第にお互いの部屋を行き来しするようにもなった。
「ねえ、来月の連休、ちょっと遠いとこ旅行してみない?」
「遠いとこってどこ? 県外?」
「えー、北海道とか沖縄とか」
「遠いね、ほんとに。近場の温泉くらいにしとこうよ」
「えー。まあ温泉でも全然うれしいんだけどさ」
「じゃあ俺、ネットでいろいろリサーチしとくよ」
「ほんと? やった」
二ヶ月が過ぎたあるとき、彼がふとこぼした。
「たぶんこれが、俺にとっては最後の恋だから」
「そうなの?」
「うん」
彼の言葉をそのまま受け止めた私は、ふたりの将来について考えはじめるようになった。
私も、これを最後の恋にしたいと思った。それはとても幸せなことだった。
ところが三ヶ月が経って、急に彼からの連絡が途絶えた。メールをしても電話をしても、LINEもみんな無視。彼は私の前から姿を消してしまった。友達からは、欺されたんじゃない?とか、ネットなんかで男探すからそんなことになるとか散々言われた。でも私はあきらめずに彼を探した。
そしてようやく見つけた彼は…
病室のベッドに横たわっていた。三ヶ月限定、という期間は、病に冒された彼の余命だった。「最後の恋」とはそういう意味だった。ベッドで眠る彼を見たとき、私はすべて理解した。
でも私はもう彼を愛しはじめていた。その死を受け入れることなんてとてもできない。その気持ちは次第に彼への怒りへと変わっていった。
〈こんなの、ひどすぎるよ。私のこの三ヶ月のあいだの気持ち、何だったの? 私の時間を返してよ〉
もう読まれることはないかもしれない。そう思いながら、私は彼にメールを送った。奇跡が起きることを願いながら。
数日後、彼は亡くなった。その日私は会社を休んで、彼とよく行ったカフェでコーヒーを飲んでいた。するとテーブルの上でスマホが震えた。
それは、彼からの最後のメッセージだった。
ごめん。本当のことを言わないまま逝っちゃって。俺、自分勝手すぎたよな。本当にごめんなさい。俺、ひとりで残りの時間を過ごすのが怖かったんだ。誰かに助けて欲しかった。でも誰もいなくて、ネットで探した。あなたに会って、あなたのことを好きになればなるほど、もっと生きていたいって思って、数え切れないほど泣いた。たった三ヶ月だったけど…、素敵な思い出をありがとう。人生の最後にあなたに出会えてよかった。
恋愛はいつだって自分勝手なものだ。わかってる。でも、やっぱりつらい。こんな別れ、あんまりだ。すごくムカつく。
だけど、もし私が彼と同じ立場だったら、私も同じことをしたのかもしれない。何も言わずに私の前から姿を消したのは、彼なりの、せめてものやさしさだったのかもしれない。そう思わないとやりきれない。
〈私も、ありがとう。会えてよかった〉
涙をぬぐって、そう、返信してみた。
でもそのメールは、宛先不明のエラーで戻ってきてしまった。
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放送日:2018年10月2日|出演:井上晶子 佐藤任|脚本:藤田雅史|演出:石附弘子|制作協力:演劇製作集団あんかー・わーくす